しごと

十日前、親しい男の子と仕事について話した。
「お金がもらえるとか人の役に立つとかじゃなくて、もう、どうしようもなくやっちゃうもの。頼まれなくても。麻薬中毒になるようなもの。ケーキ屋で、ここまでつくれば売り物として合格というのがあるでしょう。それ以上に、がんばっちゃうの。そのがんばった部分は誰も気がつかない。誰にもわかってもらえない。でも、なんとなく過剰さが伝わる。」
ふーんと思って聞いていた。しばらく経ってから、あ、吉澤さんのことか、と気がつく。吉澤さんのしていること、ではなく、私が吉澤さんに対してしていること。
《彼女が懸命に歌う姿に目をうるませ、立ち振る舞いに胸を焦がすことこそ、私の仕事なのでは、とさえ思えてくる。》
と、前回の日記に書いた。STBに行くまえはだいぶ気持ちが落ち着いて、「ヲタ」らしさがかなり失われていた。でも彼女が目の前に現れたとき、胸はきっちりと高鳴って、ああ私は彼女に会いに来ている限り間違わない、と思ったのだった。役立たずなろくでなし人間でも、こうして吉澤さんの現場に来ることはできる。それが私の日々の雑務のなかで一番意味のある仕事ではないか。吉澤さんにとっては「女性客が一人いる」というだけのことなのに、さらに目をうるませたり胸を焦がしたりしてしまう。無駄だ。これはもう宿命だ、仕事なのだ。
モーニング娘。を好きになったとき、これから淋しい夜はDVDをみて過ごせるなと思った。最初は、ひまつぶしだった。それがいつしか、時間もお金もじゃんじゃん費やすようになってしまった。そう、アイドルの仕事は、私たちに仕事をさせること。灰色の世界でひととき頭をお花畑にするために、理性をぶんどってくださるのです。私はありがたく、ジャンキーになりたい。
ジャンキー (河出文庫)